~2019年7月某日 都内某所にて収録~
──まずはおさらいとして、前作である「ねこぶそう」の企画誕生の流れについてから軽く伺えるでしょうか。
清宮:以前のインタビューでもお話したように、当初は「美少女×武装」の企画を考えていたところから派生して、武装との違和感を最大化するために、美少女ではなく「最も可愛い生き物」としての「ねこ」をコアに据えることで生まれたのが「ねこぶそう」ですね。3ミリ軸による組み換え遊びをコンセプトに、ねこ造形へのこだわりなどを盛り込んだものでした。
そして、ねこぶそうに続く企画として考えたのが「軽トラぶそう」でした……。
(「軽トラぶそう」企画書より)
「軽トラぶそう」!!
予想外の組み合わせによるシュールな楽しさで人気アイテムとなった「ねこぶそう」に続くアイテムとして2018年のエイプリルフールに発表され、さらなる衝撃を呼んだ「軽トラぶそう」。開発を担当した、BANDAI SPIRITSホビー事業部のネコミヤさんこと清宮僚太氏(以下、敬称略)に再びお話を伺いました! 前後編にわたってお送りする記事の前編は、この予想外な企画の誕生秘話についてお送りします。
▲なんと今回は、「軽トラぶそう」のコンセプトに合わせて農業スタイルで登場の清宮氏!
──まさかの新アイテムでしたが、「ねこ」に続いて「軽トラ」という発想が生まれたのはいつ頃だったんでしょう?
清宮:時期的には2018年のエイプリルフールに「ねこぶそう」第1弾の企画を発表した直後、ふと思いついたものでした。「ねこぶそう」の企画を進める中で、次はねことは別のネタでやらなければと考えていたところに、道で軽トラを見かけて「これだ!」と突然降りてきたんです。
──なんでまたそんな考えに……。
清宮:疲れてたんじゃないですかね(笑)。
──よほどずっと、次は何を「ぶそう」させるかを考えていたのですね……。
清宮:ねこに続くアイテムとして、犬などという案はもちろんありました。たしかに動物をぶそうさせるというラインは企画として成り立たせやすい面もあるのですが、そういった予定調和では「ねこ」のインパクトに対してパワーダウンしてしまうと思っていました。そこで、元々の意外性という考え方に戻ったところで、「軽トラ」に行きついたんです。
──かなり早い時期に決定はしていたのですね。
清宮:ホビーショーで「ねこぶそう」第1弾を初展示した時には、営業の皆さんに「次は軽トラでいきます」と話していた覚えがあります。その後、「ねこぶそう」でメカデザインをお願いしていた開発パートナーであるフクダカズヤ氏にお話した際も、「軽トラ……?」という反応でした。ただ、トラクターから分解したパーツをぶそうにするというアイデアをすぐに出していただけて、農業系機械をぶそうにしていこう、という方向性がこの段階で決まりました。「ねこぶそう」第1弾を発売した後に社内で本プレゼンを行ったのですが、その時に出したのがサイトにも載せているハムスターとの対比画像ですね。
──これも衝撃的な図案ですが、どこから思いつかれたのでしょう?
清宮:プレゼン資料を作っている際に、なぜ「軽トラが可愛い」と思ったんだろう、と分析していたところ、もしかしたらハムスターと似ているのかな、と思いつきました。ハムスターを検索したところ、出てきた画像がまさに軽トラと同じ比率だったんです。よく、車の正面が顔に見えるといったことを言われますが、その中でも軽トラのバランスというのは目が下の方にあっておでこが広い、可愛い顔のバランスになっているんです。
──「ねこぶそう」の時もさることながら、次は軽トラだ、と言い出した時の社内の反応というのはいかがだったのでしょう?
(ここで同席した営業担当氏からの証言が。)
営業はわりとみんなノリノリでしたよ。「ねこぶそう」が売れたという実績もありましたし、なにより清宮さんの「この企画をやりたい」という熱意がすごかったので……。
清宮:社内プレゼンでは自分でもハムスターとの対比のようなボケを入れながら進めたりしていたわけですが、企画の根本として、ユーザーさんもまたボケたいんだなという確信がありました。今はSNS上で自分が作ったもので人が笑ってくれたり、互いにボケたりツッコミを入れたり、というのが、ひとつのコミュニケーションとして成り立っているんですよね。
──ツイッターでも、ハッシュタグを使ったボケは「大喜利」なんて呼ばれます。#ねこぶそう(https://twitter.com/search?f=tweets&vertical=default&q=%23%E3%81%AD%E3%81%93%E3%81%B6%E3%81%9D%E3%81%86&src=typd)のタグでも、多くの作例を見ることができますね。
清宮:とにかく企画が通ったことで開発を進めて、次の2019年のエイプリルフール発表となりました。エイプリルフールの軽トラは「軽トラぶそう」のために設計した試作を撮影したものだったんですが、精密なので実写だと思った方もいたようですね。軽トラ本体のデザインは本商品オリジナルなので、デザインをイチから起こして設計するのは大変な作業でした。じつは軽トラのカスタマイズは実際の世界でも人気で、雪山での配達用にタイヤ部分にキャタピラを付けるというような実用的な物から、どこまで本気かわからないデコレーションまで幅広く存在していて、元々カスタムに向いているモチーフといえるんじゃないかと。
──「ねこぶそう」では先にてんこ盛りセットのメカを作ってから全4種のアソートにパーツを分けていったそうですが、今回はまず単体メカが先に決まったのですね。
清宮:今回は先に農業用メカのトラクター、ラジオコントロールヘリコプター、コンバイン、油圧ショベルというメカ4種が決まっていました。農業機械としてのモールドにもこだわって作り込んであります。
▲軽トラとセットになるぶそうメカのラフデザイン。製品版のメカに繋がるアイデアがすでに盛り込まれています。
──細かいパーツ単位で見たときにも、具体的な形状のパーツが多くなっている印象ですね。
清宮:「ねこぶそう」の時以上に、今回は具体的な形状のパーツが多いですね。農業機械っていうモチーフは、半ばギャグで考えたところもあるんですが、パーツ単位で見ると、クローラーがあり、タイヤがあり、さらにプロペラやバケットなど、組み換えで乗り物などに見立てるために欲しいパーツが揃っているんですよ。
▲完成した全4種のセット。「ねこぶそう」よりもメカメカしいパーツが揃います。
──組み換え遊びをするにあたって、そういう手掛かりになるパーツがあるととても遊びやすくなりますね。
清宮:コクピットになるパーツもありますし、そういった遊び方を考えたチョイスになっています。
──ぶそうメカに内蔵されるジョイントパーツも、「ねこぶそう」のものより細かく分割されて自由度が高くなっているようですね。
清宮:「ねこぶそう」のときのユーザーさんの遊び方などをみて、もっとこういう動きが出来たらいいかな、ここに軸があったらいいかな、ということを考えた結果、より凝った形状のパーツになりました。それぞれ複雑な形態を作るために必要な軸の距離感なども計算して設計してあります。そのあたりは、フクダカズヤ氏のデザインによるところですね。企画開発の流れを改めて見直すと、ちゃんとした部分はほとんどフクダカズヤ氏が考えていて、私が考案したのは突飛な部分だけなんじゃないかと(笑)。
ということで、メカデザインを担当したフクダカズヤ氏からのコメントもいただいています!
質問1 開発にあたり苦労した点は?
組換えギミックも苦労したのですが、全体のリアルなディテール…架空の軽トラをリアルに見せるための工夫は苦労しました。前職の自動車開発業では軽自動車の経験はありましたが「軽トラ」は経験がなく、トラクターといった農業機械等の知識もまったく
無かったので。
ぶそう側の農業メカは近所の農機メーカーに見学に行ってメンテ作業を見せていただいたりカタログをいただいたりして知識を補いました。リアルすぎると組換え遊びの幅が狭くなるので「リアルだけどリアルすぎない」という微妙なあたりが苦労しました。
質問2 開発面で、「ねこぶそう」と「軽トラぶそう」との違いは?
軽トラぶそうでは新型ジョイントをデザインしています。ねこぶそうで遊んだ感覚をフィードバックして、細かく組換えができるように、なるべく連結性が生まれるように…とジョイント自体にカスタム性を設け組換え遊びの幅を広げる工夫しています。
質問3 おすすめの遊び方を教えてください!
モデラー視点ですと塗装やウェザリングなど塗る遊び方を提案したいのですが、やはり無心になって組みまくる! …が一番かなと。
で、外に持ち出して実車のような構図で風景と一緒に写真を撮る。そしてSNSなどで発信する!というリアルを交えた遊びも楽しいかと思います。また軽トラぶそうのジョイントでねこぶそうを組み立てると、まったく別のものが生まれたりするので時間が足りないくらい楽しいです。
質問4 造形やギミックなど、ユーザーに注目してほしい点は?
まずこんなバカげた商品を真剣に取り組んだ事に注目していただきたいです(笑)が……軽トラの内装や荷台部分など可能な限りディテールが入っています。
また、トラクターのタイヤやコンバインの左右非対称ディテールなどできるだけ実機に近しい造形を目指しているトコも着目していただけると幸いです。農業を営む方への敬意を払いました。
また上記でも触れておりますが、新型のジョイントの拡張性にも注目していただければ嬉しいですね。
質問5 最初に清宮さんから企画を持ち掛けられた際の率直な感想は?
戸惑い笑いました(笑)
ねこの次に軽トラという流れがまったく読めなくて。けど「清宮さんだからな」とすぐ受け入れました。納得はしてませんでしたけど。
後日ハムスターとの黄金比を知らされて「バカだなぁ」とすべてを受け止め褒め讃えました。
質問6 ぶそうを農業機械モチーフにしようとしたきっかけは?
ボクは栃木県の田園風景が広がった地域で生まれ育ち今も住んでおりまして、割と頻繁に軽トラや農業機械が視界にあるんです。
農業に縁のない家庭で育ったのですが「トラクターとかコンバインってかっこいいよなー」と子どもの頃からずっと思っていたのが根底にあったのだと思います。今回のモチーフが軽トラだ!と知らされ「だったらモチーフは農業機械で!」とほぼ条件反射のような感覚で発案しました。
──清宮さん、フクダさん、ありがとうございました!
突拍子もないアイデアのようで、じつは楽しさや遊びについて深く考えながら企画された「軽トラぶそう」。次回、インタビュー後編では、実際にテストショットで遊びながら商品の魅力についてお伝えしていきます。お楽しみに!!
テストショットの詳細レビューも! インタビュー後編はこちら!
衝撃の第一弾「ねこぶそう」を掘り下げたインタビューはこちら! 清宮氏のサービス精神にも注目です!
(インタビュー・文 TAC☆)
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