フィギュア原型師さんへのインタビュー企画「突撃!あみあみインタビュー」。第2弾はデジタル造形によるフィギュアやゲーム等のキャラクターモデルを制作するワンダフルワークスの社員としてフィギュア原型を手掛けてきた、RICO氏にお話を伺いました。

フィギュアは当初は全く考えてませんでした

──フィギュア造形との関わりは、いつ頃からでしたか?

RICO 仕事としてはワンダフルワークスに入ってからですね、それ以前は8年ほど前にゲームプログラマーをやっていたんですよ。一応3Dもかじってはいて、趣味で3D造形をやりつつ仕事ではプログラム組んでと両方やってたんですが。ゲームを全部ひとりで作りたかったのでそのための基礎知識としてのゲーム用3Dデータのモデリングで、フィギュアは当初は全く考えてませんでした。

──そこからフィギュアの造形へ転換していったというのは?

RICO わりとシームレスにスライドしてた感じだったんですが、これっていうきっかけを挙げるなら榊さんが最初に出したZbrushの本(※ワンダフルワークス代表取締役でもある榊馨氏の著書「ZBrushフィギュア制作の教科書」2016年刊)ですね。それを読んで「そうか3Dでフィギュアを作れるんだ」となって。考えてみると、キャラクター物は昔から好きだったので作りたいのがあるなぁとなりまして。その本を読みながら、真似して作り始めたっていうところですね。

──それじゃあ、ワンダフルワークスに入社されたのも榊さんとの繋がりからだったんでしょうか?

RICO ちょっとその後になるんですけど、ワンダフルワークスさんがツイッターで社員募集をしていたんですよ。「おお、あの榊さんの会社か」ということで応募したところ、うまいこと採用していただいてゲーム部門に配属されてモデリングを手掛けることになりました。プログラムをかじっていたおかげで、ポリゴンの流れの先読みなどは出来たんですが、会社によって仕様も違うので最初は大変でしたね。それでもゲームチームの上長さんにいろいろ教えをいただいて、キャラクターの個性の表現やイラストの再現の仕方といったことはそこで大変勉強させていただいたところです。

──ワンダフルワークスさんのゲーム部門でのお仕事の中で学ばれたことというのは例えば?

RICO 今のフィギュアの仕事でもちょっと関わってくるんですけど、ポリゴンの形状であるトポロジーとは別に、その上にテクスチャーを貼るための座標になるUVというものがあるんです。それ以前はポリゴン形状をある程度作っちゃってからUVに行くっていう感じで別の作業として認識してたんですが、それだとテクスチャを貼ったときに歪むといった問題が出ることがあるんですね。ワンダフルワークスに入ってから、そこは形状を作りながらUVも並行で作ることで歪まないということを覚えて工程がまるきり変わりましたね。最近はフィギュアでも、服の全面に精巧なディテールを入れてほしいといった要求が増えてきたので、役立っています。例えば後からディテールを貼ることになったとき、アナログと比べればそういった修正の自由度高いものの、そこでUVが歪んでいるとデジタルの駄目な部分が出てくるんですよね。そこを厳しく仕込んでもらったので、とても助かりました。

※物体表面の立体的なディテールなども、テクスチャとして貼り込むことで修正作業を素早く行うことができ、テクスチャ全体の差し替えも可能なのが大きなメリットとのこと。

──デジタルならではの作業のテクニックなんですね。その後、フィギュアのお仕事に移られたのは、いつ頃になるんでしょう?

RICO 本当に最近で、1年ぐらい前からです。Tony先生のオリジナルのイラストを立体化したエレイン(※「エルフ・コンプレックス エレイン メイドVer. 」2021年3月発売)が最初の商業原型ですね。2017年にワンダフルワークスに入ってから2~3年は仕事でゲームのモデルを作りながら趣味でワンフェスに出展していたんですが、その中でガレージキット用に作っていたラフを、ブラッシュアップして完成品フィギュアとして発売することになったものです。フィギュア造形を始めるきっかけになった作りたいものの一つに、好きだったTony先生のキャラクターがあったんですよ。

©Tony

──榊さんの著書との出会いからそこまで、行動の勢いというかスピード感みたいなものが凄いですね。

RICO 僕の場合は人に恵まれたっていうのが多分大きいですね。なにより、ワンダフルワークスに入って現場で揉まれましたから。またゲーム畑だった頃は作ってリリースまで2年ぐらいはかかるものでスパンが長かったんですが、僕ってせっかちで飽きっぽいので、そんなにかけてられるかと(笑)。もちろんフィギュアも企画段階から考えればそれなりに時間はかかるんですが、それでもゲームに比べると実際に作ったものを出力して形になるまでや、製品になったものがユーザーの目に触れてフィードバックが返ってくるまでがわりと早いので。それを次のものに反映させたりと、そういうスピード感が好きですね。

──ゲームモデルからフィギュア前提になって、作り方が変わった部分というのはあるでしょうか。

RICO 苦労したのは厚みの問題ですかね。画面上ではいい感じなのに出力してみたら服の厚みが足りなくて磨けないといった、物理的な問題にはけっこう悩みましたね。デジタルの原型師さんはたぶんみんな通る道だと思うんですが(笑)。スカート1枚にしても、前後に割る場合にはダボを打つための断面の厚みが必要だったり。その辺の感覚は難度か作ってみないと判らないところでした。

──これまでデジタル原型のお話を伺う時、手原型からデジタルに転換した方で変わった部分というのはよく伺ったんですが、RICOさんはまさにデジタルネイティブなので、見方が逆になる部分もあるのが面白いですね。デジタルもあくまでツールの一つであるとは言われますが、そのツールが変わったときに手の感覚でやっていた部分を反映するのが難しいっていう話もあるわけですが……。

RICO 私の場合はデジタルでやっていることが、アナログの方がアナログで覚えたことをやっているのと変わらない感覚ですね。自転車に乗るときに手足の延長として操れるのと同じようなことじゃないでしょうか。液タブを使って造形しているんですが、機能的にそんなフィードバックは付いていなくても、手でこれぐらい掘っているっていう感覚は得てやっていますから。逆にアナログでやったらフィードバックが過剰で混乱しちゃうかもしれない(笑)。

──なるほど(笑)。では、デジタルの造形に関して、またはご自身の造形に関して、今後に向けてこうしていきたい、こうなったらいいなということなどあれば。

RICO 今後やりたいこととしては、もっとリアルな服を作りたいっていうのがあります。型紙なんかから勉強して、シワの入れ方もよりリアルな雰囲気にしてみたいですね。いま中国のフィギュア市場などがそういうリアルな服の作りがトレンドでもあるので、本物を勉強しながら乗っかっていけたらと思います。自分の技術的なところでは、CADでの作成をいろんなものに活かしていけたらっていうのがありますね。現状でも銃やかっちりした持ち物などにはCADを使っているんですが、もっといろんな機能も把握して可動フィギュアの設計などもやってみたい。あとは磨きのいらないぐらい解像度の高い3Dプリンターができると、よりスピード感が上がるのでいいですね(笑)。

※RICO氏が原型を手掛けワンダフルワークスから発売された「Gd DSR-50 ベストオファーVer.」に付属の銃のCADデータ。実銃のディテールを、フィギュアのサイズで見栄えがしながら金型での生産も可能なようにアレンジするにあたり、正確な数値でディテールを彫り込めるCADの機能が重要とのこと。「デジタルで細かい調整が可能になりましたが、そのぶん作業が簡単になったわけではなく、やることはむしろ増えましたね(笑)」とも。

フィギュアを作る際の資料なども、実際の物をとても細かく調べて制作するというRICO氏。デジタル造形を初めてからフィギュア原型師に至るまでも、これからのことも、技術や知識を吸収することに非常に前のめりな姿勢が向上の鍵と感じられました。RICO氏が原型を手掛けるフィギュアで現在予約受付中の、ワンダフルワークスから発売予定の「パーティの観測者 MDR」についても伺ってみました。

いろんな知識を集結して形にするっていう作業が楽しいんです

──このMDRを立体化するにあたっての第一印象はいかがでしたか。

RICO 顔が難しいなーと(笑)。元イラストがほぼ真横を向いていたので、決めとしてそのアングルで見たイメージを再現しながら正面から見てもキャラクターのイメージを崩さないバランスを探るのが難しそうだなと思いましたね。

──そのメインアングルから見ると、ボディーラインは意外と見えないデザインなんですね。

RICO そうですね。スカートにショールを重ねたデザインで、そのぶん見どころになるスカートのドレープなどは、出来る限りイラストのラインを再現するように作ってあります。一方で、元イラストには見えない部分の設定などがなかったのでこちら側はオリジナルで考えて、思い切りギリギリまで肌が見える感じにしてみました。ゲーム部門でのお仕事の話しですが、ソシャゲを元にしたアーケードゲーム用のモデリングの際に元イラストに描かれていなかった背面を自分なりに作りこんだことがあって、世界観に合わせたデザインを想像するといった経験が役に立ちましたね。そういう引きだしって重要だなと、改めて思います。

露出が少ない分、肌が見えている部分は見せ場になりますから、特にこの肩回りの鎖骨や肩甲骨、また元イラストで意外と骨ばったラインで描かれている膝など、これまであまり作り込んだことのなかった関節もしっかり彫り込んでみました。

──二重三重に巻いたポニーテールの髪も目を惹きますね。

RICO こういった巻き髪は作ったことがなかったので、youtubeでヘアスタイリングの動画を見て、実際にスタイリングする方法や面の見え方などを参考にしました。そういう勉強をするのは好きなんですよ。モデラーって何にでもなれると思っていて、キャラクターを造形する仕事ですけれど、ヘアアレンジもやるし銃を作ることもあるしカーデザイナーになるときもあるしって。いろんな知識を集結して形にするっていう作業が楽しいんです。あとは元イラストでは細めの線で描かれているラインを立体としてバランスを取りながら取捨選択して造形していったんですが、じつはパーツ分割の段階になって納得がいかずに、追加で彫り込んじゃったんですよ。そのデータを榊さんに見せたところ、さすがによく見ていて「RICOさん、ここ彫ったでしょ」ってバレましたが(笑)。でもそのままOKをもらいましたし、結果としてより良くなったと思います。

──総評的な部分で、ユーザーに対するおすすめトーク的な一言をいただけるでしょうか。

RICO MDRはゲーム中ではなんというかぶっ飛んだ性格のキャラで、このフィギュアでも表情などにそういう茶目っ気を出しています。そんな彼女のおしとやかな服装というギャップも推しポイントなので、楽しんでほしいですね。

──ありがとうございました!

仕事場拝見!

ワンダフルワークス社内のデジタル原型用のPC。お見せできない部分では、デスクの周りには人によって好みのフィギュアから、シワなどを参考にするための実物の衣装まで色々なものが置かれていました。 また、社内では出力品の磨きや、デコマスとしての塗装を行うフィニッシャーなど、それぞれの部門も隣り合っていて、細かい部分の仕上げ方なども常時相談しながら行われているそうです。

原型データを画面上で見せてもらいました。髪パーツの分割や、CADで製作されたアタッシュケース部分など、細部をチェックする際のスピードもさすが。

動画後半はワンダフルワークス社内の出力エリア。3Dプリンタは信頼性の高いForm 3を使用。また、これまで分割出力していた大きなパーツを出力できるように、Form 3Lという大型機も最近導入されたところ。

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(文 TAC☆)

Wonderful Works(ワンダフルワークス) 公式サイト

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